公開最終週、終了まで残り2日というギリギリのタイミングでありましたけど、待望の『愚行録』を観て参りましたよー。
タイミングとしては仕方なしではありますが、パンフレットが完売してましたので、チラシで代用。
今思うと、本当に「パンフレットが必要な映画」だったかなぁ、……と思っとります。
で、この映画は「サスペンス」「ミステリー」なので所謂ネタバレ厳禁映画なのですが、感想を書くにあたりどうしてもネタバレせざるを得ない、……というかネタバレ必至で書きたい!書き殴りたい!!それくらいに最高の映画だったので、未見で今後レンタルか何かで見る予定の人はこの後の内容は読まないほうが身のためです。
あと、原作も読まないほうが楽しめると思いますよ。
とにかく最高の映画だった!とだけご理解して閉じてくださいまし。
……さてさて、『愚行録』ですが、まずは劇場で上記のチラシを見た時に、なにかこう惹かれるものがあったんですよね。
「仕掛けられた3度の衝撃」とか「本性を現す」とかの謳い文句とか、妻夫木聡の『悪人』にも見受けられた陰のある表情とか。……
で、私の愛読便所雑誌『Cut』にも記事が載ってて、そこに掲載されている妻夫木&石川慶監督のインタビューの内容とか、そんでもってオフィス北野の配給映画だとか。
オフィス「北野映画」なのか、……っていうイメージ。
そして決め手となったのが、
記事と同時に載っていた写真の左下の一枚に松本まりかが映ってたこと。
あ!松本まりかだーッ!!
*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
ってなりましてね。
まあ、知らない人が多いと思いますけど、私はこの人のファンなんですよ。
ゲーム『ファイナルファンタジーX』とかアニメ『蒼穹のファフナー』とかの声優もしてましたし、蒼井優と2人芝居とかもしてましたし、今話題のドラマ『カルテット』の来週の最終話にも出てくるそうですし(見てないけど)、最近始まった朝セブンのCMにも出てるそうですよ。
そんな人が出てくるとなればもう、行くっきゃない!!ってことで意を決していたわけですが今日までタイミングが合わず、でもようやく観に行けた次第なのであります。
ラス日1日前でしたけど、結構人が多かったですね。
それも、女性が多かった。
さて、物語なんですが、週刊誌記者の田中(妻夫木聡)は、妹の光子(満島ひかり)が育児放棄の容疑で逮捕されてしまい、彼女の娘は重体で入院してるという、そんな重苦しいムードを払拭すべく、1年前に起きて迷宮入りしている田向一家惨殺事件を改めて取材しようと関係者から証言を集め始めるのだけど、そこから浮かび上がってきたのは、理想的な田向夫婦(小出恵介、松本若菜)と、証言者たちの思いもよらない実像
、秘められた「愚行」だった。……という感じです。
映画の冒頭、オフィス北野の「あのロゴマーク」が出た時の、妙な昂揚感!!
北野武監督の映画ではないんですけど、まるで北野映画をこれから観るかのような錯覚的昂揚。
ここでまず「これから映画観るぞー!」という気分になるというものです。
まず感想ですが、上記に書いた通り、最高に面白かった!!でありますよ。
印象を一言で表すと、「全員、クズ人間」という感じでしょうか?
もしくは『アウトレイジ』よろしく「全員、悪人」ですかね。
でも『アウトレイジ』的な映画ではなく、白石和彌監督の『凶悪』に近いです。
あの映画も記者の山田孝之が獄中のピエール瀧と面会して彼が起こした事件の真相を探っていくという内容でしたが、この映画も雰囲気はかなり似ています。
が、一番の違いは映画の視点である主人公が「善か悪か」という点。
『凶悪』の山田孝之は「善」の視点に立っていて、そこから事件を見つめていきまして、でも最後に面会室でピエール瀧から「お前にも凶悪な面はあるだろ?」と指摘され戸惑って終わる、みたいな感じでしたけど、『愚行録』における妻夫木聡は初めから「善」の視点には立っていないのですよ。
冒頭、妻夫木がバスに乗ってる描写から始まります。
で、妻夫木は座席に座ってるんですが、目の前にはお婆さんが立ってて、その隣に立ってるオッさんが妻夫木に対して「おい、お前、席譲れよ!」みたいに言ってくるのです。
で、妻夫木は席を譲るのですが、その際にオーバーに躓いたり足を引き摺ったりするのです。
バスを降りるときも、足の具合が悪い感じで降りていく。
なんの情報も持たない私たちは、妻夫木がそういう人物なのか?と思うんですが、実はこれ、妻夫木によるオッさんへの「当てつけ」なんですね。
足なんか全然悪くない。
演技してただけ。
オッさんはバツの悪そうな顔をしてまして、それを見た妻夫木は「ざまあみろ」という顔をしている、と。
まずそこで、この田中という男の「底意地の悪さ」を提示されるわけです。
尤も、私はここで妙なカタルシスを覚えてしまいましたけどね。
高齢者や妊婦さんに席を譲るのは当然の行いですが、そうではなく怪我人や身体的に弱ってる人だって優先席に座る権利(「権利」っていうのもヘンですけど)はあるわけで、このオッさんの様に判然としない状況でも平然と押し付けてくる「愛のない正論」「ションベン正義」に対して如何なものかというのは常々思っておるところなのであります。
私も普段、職場のエレベーターで1階で乗ってきて2階で降りる女性に対して、階段使えよ、とは思いますけど、でももしかすると妊娠初期の人かもしれないから、そこは大らかにやり過ごしております。
ただ、その人がものすっごいピンヒール履いてる時は殴ってやろうかとも思いますけど。……
そんな冒頭から始まって、妻夫木と満島ひかりとの面会。
この時の、というか映画全般における満島ひかりの「病んでる演技」が実にすごい。
純度100%の狂気ではなく、正気と狂気の狭間を行ったり来たりしてる様な、どっちにも受け取れるすごいバランスで芝居をしてて、一気にこの映画の世界観にハマっていくのであります。
説明的なセリフは全くなく、でも会話の端々から「ああ、満島ひかりがネグレクトしたんだな」とか「今、娘の容体は悪いんだな」とか「2人の関係性」とか、そういったものが提示されてきまして、その間がなんとも北野映画的でしてね。
まあそれはロゴマークからくる先入観でしょうけど、でも間が実にいいんですよ。
ゆったりと、でも重々しい、間。
で、そんな闇を抱えている妻夫木が例の一家惨殺事件に臨むわけですが、証言者は全部で4人。
田向一家の夫の方、 小出恵介の証言者として会社の同期だった眞島秀和と元カノの市川由衣が、妻の松本若菜の証言者として大学の同級生だった臼田あさ美と元彼の中村倫也が登場しまして、それぞれの証言を元に過去の風景が映されていくという群像的案構図です。
細々と書いていってしまうと収拾がつかなくなるので割愛しますけど、ざっくり書くと、大学時代の田向夫婦の「裏の顔」が見えてくるのです。
小出恵介は大学時代、就活にコネを使いたいがために父親が建設会社の社長である市川由衣と付き合い、でもって同様に親のコネがある別の女とも付き合ってて、それを利用して内定を貰ってたりして、でもって会社員時代には新入社員の女性(←これが松本まりか!)と懇ろになった挙句、眞島秀和と意図的に三角関係を作り出してポイ捨てしたり、……という「周囲の人間を利用しまくる」というクズっぷり。
で、松本若菜は「お嬢様」として大学ヒエラルキーの頂点に立ち、周囲の人間からの羨望の眼差しと嫉妬心を受けて気分を良くし、また臼田あさ美の恋人だった中村倫也を奪ったり、というクズ野郎で(女だけど)。
で、またそういう証言をしていく4人も、その時の話し方にまあ悪意がこもってるわけです。
そこから垣間見える人間のエゴがまあ、黒々としてて恐ろしい。
で、結構実感を伴うというか、「解らなくもない」という気分にさせてくれるわけです。
人間のエゴって、普遍的で誰しもひとつくらいは身に覚えのあるものですからね。
で、それを取材していく妻夫木の佇まいもまたすごい。
聞いてる様な聞いてない様な、達観してる様な、諦念してる様な、こいつらクズだなぁ、……って感じで同情せずに聞いてる。
そんな風にクズ描写が進んでいくんですが、でも事件の真相はなかなか見えてこない。
真相を表面から少しずつ少しずつ削って象っていくんですけど、でも完成するべき形が一向に見えない。
見えてこないんですが、「ある時点」から一気にガクンッてシフトするんですよ。
それまで少しずつぼんやりと象ってきたのに、そこにいきなりガッとノミを突き立てる様な、そんな急展開がありまして。
3度の衝撃の1度目ですね。
実は松本若菜が形成していた取り巻きの中に満島ひかりがいたっていう。
田向夫婦を巡るクズ過去と並行して描かれてきた妻夫木兄妹の描写なんですが、実は過去に2人も親から虐待されていたという過去が描かれてきて、こっちはこっちでまた別の重苦しさが滲んでいたんですが、ここで一気に2つの過去が一緒くたになってしまうのです。
このえマジで?!っていう。
まず1度目の衝撃。
で、2度目の衝撃。
その満島ひかりが関わっていたということを、臼田あさ美が思い出すんです。
思い出してしまう。
でもって、妻夫木を呼んで話す。
彼が満島ひかりの兄だとも知らずに。
満島ひかりは松本若菜に利用され、彼女の周辺の男に良い様に誑かされたりして都合の良い女にされてしまい、野蛮に言ってしまえば「まわされてしまう」のですよ。
満島ひかりが拘置所のベッドで寝ている際、彼女の周りを無数の手が蠢くというなんともホラーな描写が何回か映されていて、なんだこれ?と思うのですが、実はそういうことを表してたんだろうなぁと思いましたね。
無数の男に抱かれ続けてきた女の生理的不快さ。
で、兄の前でそんな妹のことをベラベラと悪意を伴って喋った挙句、妻夫木に花瓶で撲殺されてしまうのです。
はい、ここで2度目の衝撃。
うおマジかいッ?!
((((;゚Д゚)))))))
って。
返り血を浴びるほどに殴り倒した妻夫木はどうすんだろう?と思ったら、以前の取材で手にいれた中村倫也のタバコの吸い殻を残していくっていう策士ぶり。
てかクズすぎる!!って。
で、事件がヘンな方向に進みつつあったんですが、でも実はそれが「正解」で、犯人は満島ひかりだったのですよ。
街で偶然再会したけど、でも完全に無視され、加えて理想的な家族像を築いていた彼女を見て何かがプチッと切れてしまい、田向家に侵入、小出恵介も松本若菜も娘も刺し殺した、ということを精神科医のカウンセラー室で淡々と語ってるんですが、でもカウンセラーはその場にいなくて独り言で誰も聞いておらず、そんでもってカウンセラーから「あなたの娘さんは息を引き取った」と聞かされる、と。
こうして事件の真相は、ぼんやりと解明されたわけですが、実は妻夫木は事件の真相を既に知ってて、犯人が満島ひかりだと気付きそうな人間を見張りつつ、気付いた人間は殺そうとしてきたんじゃないか?なんて私は思いましたね。
でも、それが合ってるか間違ってるかは判りません。
あと、市川由衣は全く関係ない人と結婚して男の子を設けてるんですが、取材に来た妻夫木に対して「似てると思いません?」って言うんですよね。
見てる私たちも妻夫木も、一瞬「え、誰にですか?」って思うんですけど、これ、もしかして「実は市川由衣の息子は今の夫との子ではなく小出恵介との子なんじゃね?」みたいな推測も成り立ちますよね。
そう考えると、市川由衣もなんともゲスだなぁと、今なんとなく思いました。
そんなこんなで物語は収束していくんですが、最後の最後で第3の衝撃ですよ。
これ、ねぇ。
満島ひかりの弁護士(濱田マリ)が弁護のために彼女の母親の元を訪ねるんですが、そこで彼女の娘についていろいろと訊くのですよ。
で、濱田マリは、その娘は満島ひかりが父親の性的虐待の末にできてしまった娘だと思っていたらしいんですが、その説明も劇中あんまりなかったので、ここで「え、そうだったの?!」と面喰らうんですが、でも母親は「あなたは何か勘違いされてるみたいですね」と返すわけです。
で、最後にまた妻夫木と満島ひかりの面会ですよ。
ここで、満島ひかりが以前の面会でも言っていたセリフをもう1回言うんですね。
「私と、お兄ちゃんだけしか知らない、2人だけの秘密があるって、最高だね」って。
……もう、ほんと、ここですよ。
3度目の衝撃。
なんとなく終盤で怪しくなってはいましたけど、でもまさか、……っていう。
で、劇中ではその曖昧なセリフだけで明確にはせず終わるのです。
その後味の悪さったら!!
最高すぎますよ!!って。
最後はまたバスの描写で終わります。
妻夫木は妊婦さんに席を譲って終わります。
ここまで読んでもらって、『愚行録』を観てない人が「面白そうだから、じゃあ観てみるか!」って気になるとは到底思えませんが、でも本当に心が動かされる映画でしたね。
後味はすごく悪いです。
でも、何かが残るというか、問われてる様な、そんな余韻が尾を曳いております。
すっごい映画を観たなという気になりましたね。
多分、今年のベスト10には確実に入ってくるでしょうね。
ほんと、ネタバレせずに観れて最高の体験を味わえました。
さて、次回は『キングコング』ですよ。
もう、「髑髏島の巨神」っていう響きだけでサイコーですよね。
IMAXで観る予定です。
ではでは。